1. 基本撮影
ここでは、すべての土器に共通する基本的な撮影方法を解説します。
器形や文様に凹凸をもたないシンプルな土器は、この「基本撮影」によって得られた写真だけで三次元データを作成できます。
基本撮影は、以下の3つのプロセスからなります。
- マーカー撮影
- メイン撮影
- 上下端部補強撮影
マーカー撮影
土器撮影にはいる前の予備的な撮影です。まずはこの動画をご覧ください。
最初に、これから撮影する写真群がどの土器かを明確にするため、初めの一枚は資料番号(PPサービス利用者は委託番号)を書いた紙を土器と一緒に写します。PPサービスの場合、この写真が土器を二次元図化するときの「正面」となるように撮影してください。
次にマーカー撮影です。
三次元データの縮尺は、三次元データを生成したあとで、同時に写したマーカーをもとに調整します。
通常、マーカーは対象物を撮影した写真のなかに断片的に映り込んでいれば十分なのですが、稀にマーカーの情報が不足し、土器のスケールをあわせることができないケースが生じます。それを防ぐためマーカー撮影を一番最初に済ませてしまおうという..というのが、この「マーカー撮影」のプロセスです。
メイン撮影
それでは土器撮影にはいります。まずはこの動画をご覧ください。
マーカーシートの放射状のガイド線に従って、土器を中心に16方位から撮影します。
各写真は、隣り合う写真とのあいだに80%オーバーラップを維持していることが重要であるため、1方位あたりの必要撮影枚数は、土器の器形(最大高:最大幅)によって変化します。委託リストに対象となる土器の器高と最大幅を入力すると、右側の欄に一方位あたりの撮影枚数の目安が表示されますので、ご参照ください。
メイン撮影の評価
これがメイン撮影で得られた写真からPEAKITを作成した結果です。
範囲1〜3を拡大してみます。
まず、口縁部(範囲1)を拡大します。口縁部のラインが上に向かって凸凹しており、データが大きく乱れていることがわかります。
次に、断面図上部(範囲2)を拡大します。断面の線がギザギザしており、やはり口縁部のデータに乱れが確認できます。
そして、土器の下部(範囲3)を拡大します。縄文の施文されていない部分は実際は滑らかな器面なのですが、ザラザラしているように表現されてしまいます。
このように細部を拡大してみると、データの荒れや欠落が起こっており、それが上部と下部に偏る傾向があります。
その理由は、ステレオマッチングの原理を考えると容易に理解できます。図のように、メイン撮影だけでは各列の上下両端は、写真が不足し、オーバーラップ率が低くなってしまうからです。
そこで、メイン撮影が完了したら、上端と下端を補強するための撮影をおこないます。
上下端部の補強
上端部撮影
上端の補強撮影の方法は、この動画をご覧ください。
このように上端部を内側から外側にかけてまわりこむように撮影します。
この撮影を行なうことで、メイン撮影各列上段写真のオーバーラップ率が上がり、同時に上端部が口縁である場合は口縁の断面形を正確に再現することが可能になります。
とくに口縁が内湾する土器では、 -60°のショットは安定した撮影姿勢をとりづらくなるので、無理をせず反対側を写しながら改めて一周することをおすすめします。
下端部撮影
下端の補強撮影の方法は、この動画をご覧ください。
下端部の撮影は、土器が接地しているため、真下からまわりこむように撮影することはできません。そこで、メイン撮影におけるカメラの軌道16方位の中間を埋めるようにカメラ位置を半分ずらし、横の写真同士でオーバーラップを追加していきます。こうしてメイン撮影各列下段写真のオーバーラップ率を上げることができます。
上下端部補強撮影の効果
下図はメイン撮影に上下端部補強撮影を追加した画像です。
「メイン撮影のみ」で認められたデータの乱れは、上下端部の補強撮影をおこなうことで解決されていることがわかります。
全体図です。断面の線が内側中段まで延びているのは、上端部撮影の内側からのショットが追加された効果です。
口縁部(範囲1)の拡大画像です。「メイン撮影のみ」で見られたデータの乱れは解消し、口縁のラインがシャープに表現されています。
断面上部(範囲2)の拡大画像です。「メイン撮影のみ」で見られたデータの乱れは解消し、口縁の断面ラインが忠実に再現されます。
土器下部(範囲2)の拡大画像です。「メイン撮影のみ」で見られたデータの乱れは解消し、土器本来の滑らかな器面が表現されます。
失敗の実例とその対策
下図はラング社内で実際に起こった例です。
メイン撮影と上部撮影を別工程としたことによって、両者の間に十分なオーバーラップが得られず、ひとつの三次元データになりませんでした。
これ以降このスタッフは、メイン撮影と上端部撮影の工程を分けずに、土器の内側上部から外側下部までの撮影を一連の動作とすることで、このようなエラーは起こらなくなりました (立ったり座ったりで少々疲れますが)。
重要なことは、常に「すべての写真がオーバーラップで結束することで三次元データができる」ことを意識して撮影することです。この認識のもとであれば、実際の撮影順序は撮影者がやり易いようにアレンジしていただいて構いません。